最近読んだ本

お題「この前読んだ本」

最近読んだのは、パール・バックの「大地」。

内容は、中国の近年のことを王家という家族を通して描いたもの。

作者は、いつ頃の話なのかを一切書こうとしないので、推測をするしかないのだが、清朝の末期から、皇帝がいなくなったという記述があることから、清朝が瓦解し、中国が混乱の最中にあった頃を描いたものと思われるのだが、余り当時の国内における混乱状態を描き出そうとはしない。

もっぱら、王家の家族が市民として生活していく様を描くにとどめている。

最初は、王龍という貧農の男が、黄家というとても裕福な地主の家で奴隷として働かされていたお世辞にも美人とは言えない女と結婚するということから始まる。

貧農のために嫁の来手が無かったことから、奴隷女を貰いたいと王龍の父親が黄家に頼んだところ、くれるというので、黄家に出かけていった王龍は、その家の女主人からこう言われた。

「見た目の良い女奴隷はみんな息子達の手込めに遭っているが、あの女に手を出そうとするものはいるまい。その意味では綺麗な女だと言える。せいぜい可愛がってやると良い。」

黄家からもらい受けた女奴隷だった女は、ずんぐりとした体型で外見はきわめてよくなかったが、次から次へと子供を産み、子育てをし、家の家事全てを行った上で重労働の野良仕事を嫌がることも無く極めてまじめにこなしていった。無口で、必要なこと以外殆ど口も聞かないし、かわいげの全くない女だが、家事全般をそつなくこなし、大金持ちの家の調理担当として働いていたために、王龍が見たことも無いような豪華な料理を家にある材料を工夫して作ってくれるので、王龍としては何の不満も無かった。

ある年、王龍の住む一帯が大変な飢饉になり、売るための食料は勿論、自分達が食べるものさえも無くなって、子供たちは泥を食べてひもじさに耐えているという有様になってしまった。

食べるものが無くなった王龍一家は、このままでは飢えて死ぬだけだと言うことから、家財を売ってわずかばかりのお金を手にし、南の大都市へ行くことになった。この時に家屋敷と土地も売るように言われたのだが、家屋敷と土地を売ってしまったら帰ってくるところが無くなる、と言って断り、泣け根無しのお金で家族全員の汽車の切符を買って、汽車に乗って南の大都市に行ったのだった。

彼らが向かった先の都市の名称は書かないのでどこかはわからないが、南京あたりでは無いかと推量するしかない。この大都市で王龍は人力車の俥夫をしてお金を稼ぐ。しかし、人力車の俥夫では人力車を借りるための代金で貰ったお金の殆どが消えてしまうので、家族が食べて行くには全く足りなかった。このために、道路にむしろを敷いて王龍の妻である母親とその子供たちがむしろの上に並んで物乞いをして飢えを凌ぐという生活だった。

この場では、王龍一家と同じような境遇のものが並んで同じようなことをして生活をしていた。

所がある日、お金持ちの大きな家の塀を背にした状態で物乞いをしていたのだが、そのお金持ちの家の中で争乱が起こった。その騒乱に紛れて道路で物乞いをしていた者どもが塀を破って家の中に入り、家の中にある金目のものを奪うと言うことを始めた。これを見た王龍一家も金持ちの家の中に入って金目のものを探し始めた。王龍はたいしたものを持ち出せなかったが、あとで妻の阿藍が小さな袋を持っているのに気がついて問いただすと、阿藍は渋々袋の中味を見せた。袋の中にあったのは様々な宝石類だった。

一見したところ鈍重で、機転も何も聞かなそうな阿藍だが、お金や金品にかけては驚くほどに目端が利いたのだ。こうした場合お金持ちの女はどこに大切な宝石類などを隠すだろうと思い、富豪の家にいた経験からここにと思った所に宝石が入った袋があったというのだ。

これで一気にお金持ちになった王龍は、春になると自分の家に戻り、次々と土地を買いあさり、阿藍が奴隷としてこき使われていた大金持ちの黄家がアヘンを買うために多額のお金が必要になり、どんどん土地を売り始めたのを良いことに、王龍はこの土地をみんな買い占めてしまい、たちまちにして貧農から大地主になってしまった。

お金に不自由しなくなると、王龍は女を買いに頻繁に街に行くようになり、ついには1人のスリムな美人の娼妓を買ってきて新しく建てた家に住まわせるようになった。

こうした一連のことに対しても阿藍は一言の文句も言わずに黙って従っていたが、やがて、阿藍の腹がふくれてきて苦しみだした。医者に診せたが助からないと言われ、皆に看取られながら阿藍は寂しく亡くなっていった。

やがて、王龍が老年の域にさしかかると、かつてはほっそりとして美しい女であった娼妓が肥え太り、可愛くも何ともなくなってしまったが、追い出すこともせずに贅沢三昧な生活を続けさせていた。そうしたある日、家にいる奴隷の中の最も年若い梨華という娘に王龍は手を出してしまった。祖父と孫ほどの年齢差があることから、さすがの王龍も子供たちに対して戸惑った風を見せていたし、こどもたちも驚いたが、間もなく皆この事実を受け入れた。

 

この話はおおよそ100年位昔の頃を描いたものなのだが、中国には100年前にはまだ奴隷があたりまえのようにいたと言うことのようで、この本を読んで一番驚いたのはこのことだった。100年位前には日本でも貧しい家では娘を女郎として郭に売ると言うことを行っていたが、女郎は実態としては奴隷と大差が無いとは言え、奴隷とは呼ばなかった。所が、中国では当時貧しい家では裕福な家に娘を奴隷として売ると言うことが普通に行われていたようなのだ。日本でも奴隷は存在したが、それは戦国時代までの話で、4-500年ほども昔のことだ。

 

清朝が滅びたと言うことについては、そのきっかけとなったのが日清戦争であったわけで、世界の中心と豪語していた中華思想の中心地である中国に比して、ちっぽけな国と言うことで軽蔑しきっていた日本との戦争に負けたことから、清朝の権威は地に落ちてしまい、中国中に散らばっていた軍閥が好き勝手なことをし始める。領地を奪うための軍閥同士の戦いに終始するという、まさに、日本の戦国時代とそっくりなことが起こっていたのだ。ただ、日本の戦国時代と違うのが、日清戦争で敗北したことを知った欧米諸国が中国に侵攻してきて、日本や欧米が支配している地域ができるのだが、皮肉なことに、そうした外国の支配地域では平穏な日々が続いていたのだった。

王龍の子供たちは成人したが、たくさんの土地を持った大地主になったことで、お金持ちであることを良いことに何もしないで遊び歩いているものばかりだが、1番年下の弟が地方の軍閥に使えて、その頭目に気に入られて出世を遂げる。

年老いた王龍が死に、軍閥の中から有望な兵士を率いて独立した王虎に話は大きく展開し、王虎の生涯に物語が移っていくのだが、こうしたことを書いているととんでもなく話が長くなるし、実際この本は大変な長編なのだが、全てのあらましを書くだけでも大変なことになるので、この辺で止めておく。

最後に、上海と思われるところで、王虎の息子の元が百姓と仲良くなるのだが、その百姓が言っていたことがとても印象的なので、その場面を書いておきたい。

この当時皇帝がいなくなって国を治める統治者がいないという状態になり、中国全体が混乱の中にあって、その人々の不安感をエサに共産主義思想が幅をきかせ始めていたのだが、これに対して百姓はこう言っている。

 

元が革命党員のためにおだやかに弁護めいたことを言うと、百姓は一言のもとに怒鳴りつけて言った。

「じゃ、あの連中が、いったいわしらの為に、どれだけ役に立つことをしてくれただね。わしは、わずかばかりの土地と家と雌牛を持っているだ。もう、これ以上土地は要らないし、食うだけのものはあるだ。お上で税金さえむやみに取らなけりゃ、今のままでいいだが、わしらのようなものは、いつでも税金を取られるだでな。あの連中が来て、わしや、わしの家族を楽にしてやるというだが、なぜそんな必要があるだね。見も知らねえ人のおかげで楽になったなんて話は聞いたこともねえだ。身内のものでなきゃ、誰が親切にしてやるもんか。何か自分達のほしいものがあるのは、ちゃんとわかっているだよ--わしの雌牛か、でなけりゃ土地だろうて」

 

この本が書かれたときには、中国は共産党支配下には無かった。しかし、パール・バック共産党の本質を見抜いていたのだ。彼らが親切そうにしているのは、権力を握った暁には人々から自由を奪い土地を奪うことなのだと言うことを。

しかしながら、どこの国でも同じだが、愚かな民衆は口先だけのうまい話に乗りたがるものなのなのだ。戦前の日本軍と中華民国軍、それと中国共産党が入り乱れて戦うという混乱した世の中にあっては、圧倒的多数の愚かな大衆には共産党のスローガンは魅力的なものに映ってしまったようなのだが、その結果中国は共産党支配下になり、多くの無辜の民が人民解放軍と言うのは名ばかりで、実態は共産党の軍隊である人民抑圧軍によって殺され、子々孫々に至るまで悲惨な人生を強要される羽目になってしまったのだ。

今となっては全く取り返しのつかないことではあるのだが、日本だってとても人ごととは言えない。日本も統一教会という日本を悪魔の国と言い続けている韓国のカルトに、自民党という政権政党の多くの議員が投票をエサに統一教会の会員になり、圧倒的多数の自民党の議員が統一教会頭目を真のお父さん、真のお母さんなどと言っていたのだ。

日本を悪魔の国と言っているのは、影で密かに言っているわけでも秘密でも何でも無い。堂々と公に日本は悪魔の国だと明言していたのに、そうしたとんでもないカルトに自民党の殆どの議員が集会に出席し、統一教会の教祖である文鮮明を称えたり、献金をしていた。

また、イギリスの第2の大都市であるバーミンガム市では財政破綻となったが、莫大な借金があるにもかかわらず長年にわたって公務員に高額な賃金を支給し続けてきた。

「6億5000万ポンド(約1200億円)を超える同一賃金債務に見あう財源がない」。バーミンガム市議会は5日、地方財政法に基づく事実上の破綻通知を出した。

これは日本にもそのまま当てはまる話だ。日本では1300兆円を超える巨額な借金を抱えていながら、無能な日本政府は高額な報酬を公務員に払い続けているが、こんなばかげたことが永遠に続けられるはずも無い。自民党も役人どもも国が巨額の借金を抱えていることなど全く気にもかけていないかのような振る舞いを続けているが、いつになるかはわからないとは言え、いつかは必ず財政破綻という悲惨な結果が現実のものになることは確実なのだ。

それにもかかわらず、圧倒的多数の愚かな民衆は自民党を支持し続け、借金まみれの政府にたかることばかりを考えている。

民衆というものは、どこの国でも圧倒的多数が愚者だと言うことを、こうした事実が教えてくれている。